目と手の協応  Eye-hand coordination

これまでの活動を通して、赤ちゃんは見たものに手を伸ばし、触れる体験をしてきました。

目で見たものの形や距離感など視覚からの情報、そして、実際にそのものに触れることによって

得られる質感、重さ、固さ、温度などの感覚。

それらが統合される経験を繰り返すことによって、子どもは認知機能を発達させます。

視覚と指の動きを統合させ、見たものに応じて手を操作することを、目と手の協応といいます。

この時期の発達の課題のひとつが「目と手の協応の獲得」です。

ここからの約1年間は、手を使う機会をたくさん作って、さまざまな手の動きを学びます。

ここで紹介する教材は、無理なく少しずつ、できることが増えていくように

発達の段階に応じて準備されたものです。

子どもが興味をもったものに、思う存分、関わらせてあげてください。

大人の役割は、子どもの様子を見ながらいくつかの教材を棚に出して

やり方を見せてあげることです。

発達の段階に限らず、興味は子どもの個性やその日の気分でも変わります。

先に進ませようと、教材を押し付けてはいけません。

できるようになることは、楽しいのです。

自分の思い通りに身体を動かせるということは、嬉しいのです。

褒める必要もありません。

できたことを、いっしょに喜べることが大切なのです。

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起き上がりこぼし Motion Wobbler

手はまだ4本の指だけを使い、手のひらや親指は使っていません。

熊手でかき集めるような動きをしています。

これは、高さ12㎝ほどの小さな起き上がりこぼしです。

手で触れるとゆらゆらと傾き、また戻ってきます。

動くとボールがスライドして、楽しいクリック音を出します。

わずかな力で触れても大きな動きを返してくれるので

自分の行動によって起こることの結果(因果関係)をわかりやすく知ることができます。

知っている物のかご Basket with Known Objects

これまでうつ伏せか仰向けで横たわっていた身体は

最初は支えられながら、次第にひとりでお座りができるようになります。

おすわりができるようになると、両手が自由になります。

これから手の動きは広がり、大きく変わります。

浅いかごに、子どもが知っている家庭用品やおもちゃを2つ入れて

おすわりしている子どもの前に置いてあげましょう。

子どもは選んだものを手に取り、活動します。

わたしたちの日々の生活は、小さな選択の連続です。

大人は「選ぶ」ということに慣れていますが

経験が少ない子どもは、選択肢が多すぎると選ぶことができません。

まずは2択からはじめて、慣れてきたら3つに数を増やします。

カップとボール Wooden Cup with Egg

木製のたまご型の立体と、それがぴったりおさまる木製のカップです。

本物の卵とおなじくらいの大きさで作られています。

球体のものがある場合には、たまご型のほうが持ちやすいので

子どもにはたまごの方を先に紹介します。

たまごをカップから出し、それをまた入れるという活動ですが、

子どもは最初、たまごとカップを同時に握り、打ち合わせることを楽しみます。

どんな扱い方をしていても、危険でない限りやめさせる必要はありません。

これもまた、同時に両方の手を使うという、貴重な体験です。

今後、服を着る時などに必要な重要なスキルのひとつです。

やり方を見せる時には、左手でカップを押さえ

右手の3本指でボールをカップから出して、たまごをカップに戻します。

両手の動きが異なるところを、しっかりと見せます。

この時期の子どもは手のひら全体でたまごを握りますが

見せるときには3本指で持つことを強調します。

それは、子どもの次の把握のステップが、親指と4本の指の対応につながるためです。

まず、子どもはカップから、たまごを捨てられるようになります。

そして最終的には、たまごを元に戻すようになります。

箱と立方体 Box and Cube

たまごの出し入れができるようになったら、箱の中に立方体を入れる活動を紹介します。

球体と違って、角を合わせないと入れることができないので、難易度が上がります。

ぴったりのサイズの箱よりも以前に、まず大きさに余裕のある箱をあげましょう。

様子を見ながら、徐々にぴったりのものにしていくと、スムーズに次の段階に進むことができます。

立方体の一辺は3㎝~4㎝です。

箱は紙製でも、木製でも構いませんが、口に入れる可能性を考慮してください。

立方体を箱から出すときは、手のひらで箱の上下をはさんで、箱をひっくり返します。

その後、左手の上に箱を持ち、右手で持った立方体を箱に入れて見せます。

トレイとボールの箱  Box with Tray and Ball

箱の穴にボールを落とすと、トレイにボールが転がり出てきます。

落としたボールは、いちど子どもの視界から消えます。

そして、転がり出てきて再び見えることが、この時期の「対象恒常性」の発達を助けます。

「対象恒常性/物の永続性」とは

「ある対象が目の前から消えても、その対象自体はなくなっていない」という感覚です。

成立するのはおよそ生後8か月頃といわれています。

カップとボール、箱と立方体で行ってきた、把握したものを目的の場所で手放すという

目と手の協応は、この活動を通して、さらに意識して行われるようになります。

手のひら、手首、指をコントロールし、目的を達成するという経験を繰り返すことは

手の動きを洗練させると同時に、子どもの自立心、自尊心を高めます。

やり方を紹介する時は、子どもの目の前に、トレイが手前に来るように箱を置きます。

大人は子どもの右側に座ると、視界を遮らずに動きを見せることができます。

3本の指を強調してボールを持ち、穴に落とします。

同じ動きを、反対の手も使い、何度か繰り返します。

もちろん、子どもが手を伸ばしてやりたがったら、すぐに変わってあげましょう。

子どもはトレイを横にして活動するかもしれないし、これはいったいどうなっているのかと

ひっくり返したり、打ち付けたり、持ち上げたりして調査するかもしれません。

大人は無理にやめさせることはせず、安全に配慮して見守りつつ、正しい活動の仕方を

繰り返し見せます。

ひとしきりすれば、子どもは調査に満足して、活動に導かれるでしょう。

なぜなら、発達段階にあった教材は、間違いなく魅力的で子どもを惹きつけるからです。

もし子どもが活動に興味を示さなったら、その教材は子どもにとって簡単すぎるか、

難しすぎるか、いずれかで発達の段階に見合っていないと考えられます。

個性や興味、経験などによっても変わってくるので

このサイトではあえて、それぞれの教材を月齢で紹介していません。

その活動が発達に貢献するものかどうかは、とてもわかりやすく明確です。

子どもが生き生きと、集中して何度もかかわる姿が、それを教えてくれるのです。

引き出しとボールの箱 Box with Drawer and Ball

長方形の箱の穴にボールを落とすと見えなくなり、引き出しを引くと、中からボールが出てきます。

引き出しには傾斜がついていて、手前に転がってくるようになっています。

子どもの前に、引き出しが右にくるように箱を置きます。

安定するように左手を箱に添え、右手で引き出しを開けます。

ボールを取り出したらいったん置いて引き出しを閉め、ボールを穴に落とします。

トレイ付きの箱では自然にボールが出てきましたが、引き出しは見えなくなったあとに

アクションを起こさないとボールを見つけることができません。

落ちた穴をのぞいて見ても、そこにボールはありません。

問題解決力が目的に加わります。

引き出しを閉じずにボールを穴に落とすと、大人の手助けが必要になります。

ボールを取り出し、いったん置いて、引き出しを閉める、という流れを

丁寧に見せてあげましょう。

ボールを押し出す箱 Box with Balls to Push

ハンマーで叩くおもちゃとして売られているものですが、ここでの目的は指先を使って押し出すことです。

まだ動きが洗練されていない子どもが、ハンマーを振り回すのは危険なのでおすすめしません。

穴の上に木製のボールを置き、両手の指全体を使って押し出します。

パーの手で押す子どもの姿も見られますが、指先を強化するために指で押すことを見せます。

毛糸のボールと箱 Box with Knitted Ball

引き出しのついた箱の上部に、穴があいています。

穴よりも大きい毛糸玉がセットになっていて、穴に押し入れて落とします。

穴の直径が5㎝なのに対して、ボールの直径は約6.5㎝aあります。

そのため、指先を使って何度も動かさないと、押し込んで落とすことができません。

ボールを押し出す箱と同様、両手の指全体を使って、毛糸のボールを穴に押し入れます。

引き出しは、手前に引き出すようにして開けます。

手首を上に向けて3本指でつまみを持って引き出します。

手首を回転させるという、新しい目的が加わります。

ロッキングペグと輪 Rings and Peg on Rocking Base

市販されている、ロングセラーのおもちゃです。

プラスチック製の輪投げのようなもので、丸い底面が揺れるようになっています。

大きさの異なる5つのリングが付属されていますが、最初は下から2番目のみを使用します。

下に手を入れる空間ができるように、いちばん下のリングは使いません。

やり方を見せるときには、子どもの右隣に座り、子どもの前に台が前後に揺れるように置きます。

ペグに刺さっているリングを両手で出して置きます。

右手の親指と四本指でリングを握り、ペグに通します。

慣れてきたら、右手で出して右手で入れたり、左手で入れたり

色々な指の使いたかた、握りかたを紹介します。

リングはひとつから始め、マスターできたら数を増やしていきます。

子どもをよく見て、変化させていくことが大切です。

ペグと輪 Rings and Peg

安定感のある木製の台から垂直に棒が出ていて、そこに輪を出し入れします。

棒の直径はおよそ1㎝~1.5㎝、高さは10㎝くらいです。

ブレスレットやナプキンリングなど、色や素材を変えて輪を準備します。

木や、金属や、ロープなど、輪の素材を変化させることで、質感や重量、太さや厚みなど

様々な触覚体験や筋肉記憶を促します。

3本指で輪をつまみ、輪を出して、机の上に置きます。

再び輪を持ち、棒に戻します。

動きを意識することが大切です。

棒に戻す時は途中で手を離さず、音がしないように置きます。

子どもの興味を保つために、おなじものをずっと置いておかないようにしましょう。

輪とペグのかご Basket with Rings and Peg

木製の台から垂直に棒が出ていて、台にはかごが固定されています。

ロッキングペグと輪からはじまり、この時期、穴の開いたものを細いものに差し込む(infilare) 

という動きを、様々なバリエーションで準備します。

2本の指で輪をつまんでかごから出し、机の上に置きます。

持ち方を変えて、2本指で輪の直径をはさむようにして(Cグリップ)棒に通します。

前段階の活動よりも、直径が少し小さくなっています。

そうすることで、子どもは難なく、少しずつ、最終的にはぴったりにはめることが

できるようになります。

大きさが斬増する円盤 Stacking Discs on Dimensional Gradation

木製の円形の台から棒が垂直に出ていて、穴が開いた大中小の3つのディスクを棒に差します。

棒の太さと穴の直径がほぼ同じで、差し込む(infilare) 活動の最終段階です。

2本の指で円盤の直径をはさんで、ひとつずつテーブルに出していきます。

指が届かない子どもは両手を使います。

同じ持ち方で3つの円盤を持つことによって、大きさの違いを体感することができます。

錠と鍵 Locks and Keys

長さ3~4㎝ほどの小さな鍵と錠が、ひもで結ばれてセットされています。

左手で錠、右手で鍵を持ち、鍵穴にゆっくりと鍵を入れて見せます。

鍵穴に鍵が入ったら右手を離し、鍵が差せたことを確認します。

再び右手で鍵を持ち、鍵穴から鍵を抜きます。

まずはじめは、この鍵を差して抜く、という動きを繰り返します。

抜き差しがスムーズにできるようになったら、差した鍵を回転させる動きを見せます。

鍵が開くところに子どもは興味をもちます。

空中で物を操作することは難しいので、机の上に置いてすることもできますが

鍵穴が見えづらく、指も動かしづらくなります。

両手を別の動きで使うことも、まだとても難しい段階です。

子どもが興味を示さなければ、もう少し後になってから紹介してもよいでしょう。

ボルトとナット Nuts and Bolts

多様なボルトとナットを用意します。

これは、ナッツクラッカーとして売られている、胡桃の殻などを割るための道具です。

最初は大きく扱いやすいものから、だんだん困難性を高くします。

子どもに見せる時は、どちらかを固定し、もう片方の手で絞める、外すの操作を行います。

向こう側に回す時は人差し指が上、手前に回す時は親指が上にくるようにします。

開閉するもの Opening and Closing

かごの中に、子どもが簡単に開け閉めできる容器を入れておきます。

缶や紙箱、巾着袋、ボトルなど、子どもの手に合う大きさで

開け方や素材の異なるものを最大で5つ準備します。

蓋を回すタイプのものは、2~3回まわすと開けられるものにします。

スナップやがま口は、おそらくまだ難易度が高いでしょう。

手の動きをよく観察して、発達段階に合ったものを捜してみてください。

そしてひとつだけ、少し難しいものを入れます。

この活動は、机か床で行います。

かごを運んだら容器をひとつ出し、左手で容器を押さえて右手で蓋を開けます。

開いたことを確認したら蓋を閉め、子どもに交代します。

終わった容器はかごの横に置き、順次開閉していきます。