目と手の協応の洗練ーRefinement of eye-hand coordination

視覚と指の動きを統合させ、見たものに応じて手を操作する「目と手の協応」を獲得した子どもの

手の使い方は、それまでとはまったく変わります。

ここから3歳までは「目と手の協応」の「洗練」の時期です。

指先まで髄鞘化は進み、手を使ってひと通りのことができるようにはなりましたが

動きはまだぎこちなく、大雑把です。

「洗練」(Refinement) とは精製され、磨き抜かれたものを意味します。

生まれ持って、得られるものではありません。

これからの活動の経験が、動きをより滑らかで、調整されたものにしていきます。

そして、洗練された人間の手は、本当に繊細で、美しいものを創造します。

活動の後半では、子どもの巧緻性は高まり、はさみを使ったり、縫いさしなどが

できるようになります。

視覚からの情報を受け取り、脳が動きを判断して筋肉を動かしています。

その姿から、子どもが明確な意思と目的を持っていることに気が付くでしょう。

運動は、知性や意思・意識の発達にも大きく関わるものです。

「洗練」は一朝一夕に身につくものではありません。

早くできるようになる必要も、急いで先に進む必要もありません。

何度も何度も、子ども自身が終わりを決めるまで、繰り返すことが大切です。

また、この時期は歩行が安定してきて「全身を使った運動」も洗練の段階に入ります。

指先よりも、とにかく全身を動かしたい欲求が強い子どももいます。

子どもの様子をよく見て、静と動の活動をうまく使い分けるとよいでしょう。

ペグボックス Peg Box

木製の長方形の台に、6本のペグが差し込める穴が一列空いています。

ペグは刺さっている状態から始めます。

最初は3本から始めて、うまくできるようになってきたら本数を追加していきます。

親指、人差し指、中指の3本を使って、ペグを持ち、穴から抜きます。

この3本の指を意識して使うことは指を強くして、後に鉛筆を持つのを助けます。

抜いたペグは、手前のトレー部分に置いていきます。

全部出したら、こんどは好きな穴に差していきます。

どの穴に入れてもかまいません。

色合わせや順番を指摘したくなるかもしれませんが、その必要はありません。

時間がたつと、子どもは自ら順番どおりに入れていったり、色を合わせたりするようになります。

それは、知性が働き始めたサインです。

教え込もうとするよりも見守って、子どもが自分で気付いたことに気付けた時のほうが

きっとずっとうれしい気持ちになりますよ。

垂直棒と立方体 Cubes on Vertical Dowel

正方形の木製の台から垂直に立った棒に、穴の開いた立方体を通して入れる教材です。

子どもはこれまで、垂直の棒に様々なものを通してきました。

リングの直径はだんだんと狭くなって、最終的には棒とほぼ同じ大きさの穴のディスクを

通すことができるようにまでなりました。

この立方体は、一辺の長さが3㎝、穴の直径が1.5㎝です。

ディスクと比べると、視覚で棒と穴の位置関係を把握する難易度が上がります。

まず、かごの中の立方体を右手の親指と人差し指で挟むように持って

その持ち方を子どもに見せます。

出した立方体を子どもの前に置き、穴を意識して見せましょう。

再び立方体を同じ持ち方で持ち、棒に通します。

この時、上の位置から落とすのではなく、台座につくまで指を離しません。

同じ持ち方で、立方体を棒から抜き、かごに戻します。

右手と左手、両方を使って、何度か出し入れしてみせます。

教材は、取っ手のついたトレイにのせて棚にセットします。

そうすることで、活動を選び、机に運び、戻すという流れができやすくなります。

水平棒とディスク Disc on Horizontal Dowel

正方形の木製の台から垂直に立った棒から、水平方向に横に棒が出ている教材です。

かごの中に、穴の空いたディスクが 一緒にセットされています。

水平方向に通す、新しい動きです。

この動きは巧緻性を高めて、ひも通し、縫いさしへとつながっていきます。

発達は一方向ではありません。すべてがつながり合って、ひとりの人間をつくります。

手がこの動きにきている子どもは、手と足の連動や平衡感覚のバランスも身につく段階です。

垂直方向に入れる活動に比べて、意思の力も必要です。

机に運んで活動するということを明確に伝え、子どもにトレイを運ばせましょう。

嫌がったら棒の台とディスクのどちらを運ぶか尋ねてみたり、大人が運んでもかまいません。

この時期の提供は、コラボレーションです。

かごが左にくるように机の上に置いたら、椅子に座ります。

右手の親指と人差し指でかごからディスクを出し、子どもの前に置きます。

今度は右手の親指、人差し指、中指の3本指でディスクを持ち

横棒に穴を通し、端までゆっくりと水平に移動させていきます。

右手でディスクを棒から抜き、かごに戻します。

正中線を越える動きを取り入れるために、右手で操作して左から右へ移動させています。

3つのペグと小さなリング Three Pegs with Small Rings

正方形の木製の台から垂直に、赤、青、黄、3色の棒が3本出ています。

真ん中に穴の空いた同じ3色のディスクが1枚ずつ、かごに入ってセットされています。

垂直方向にリングを通す教材をしたことのある子どもには、特にやり方を見せる必要はありません。

棒の数が増えたことで、活動の機会が増えます。

どの色から始めるか子どもに尋ねることで、選択するという機会を与えることができます。

ひも通し Bead Stringing

木製の中央に穴の空いた大きなビーズが6個、紐と一緒にかごにセットされています。

ビーズは球、円盤、円錐が各2個づつで、大きさは一辺が3cmくらい、穴は直径1cmです。

最初は慣れ親しんだ円盤だけを出してもよいでしょう。

紐の太さは3㎜、長さは20㎝くらいで準備します。

紐の先が柔らかくて割れると通せないので、先端2㎝にテープなどを巻き付けて固めます。

もう片方の端は、通したビーズが抜けないように、大きな結び目を作っておきます。

ビーズをひとつと紐を、机の上に置きます。

左手でビーズを固定し、右手で右側から穴に紐を通します。

出てきた紐を左手で持ち、右手でビーズを結び目のある端まで移動させます。

はずす時は、右手で紐の端を押さえ、左手でビーズを動かして紐から外していきます。

かごの中に外したビーズと紐を入れたら、棚のあった場所に戻します。

メールボックス Mailbox

ポストボックス、型はめパズル、パズルボックスなどの名称で市販されています。

木製の箱の蓋の一辺が蝶番で固定されていて、手前から向こうへ上にあげて開けることができます。

蓋には様々な形の穴があいていて、そこにぴったり合う立体を落とします。

いきなりすべてを与えると難しいので、まずは円柱ひとつからはじめるとよいでしょう。

円柱は角をぴったり合わせる必要がないので、いちばん難易度が低くなります。

ひとつ落として、蓋を開けて取り出し、また落として、蓋を開けて・・・

気のすむまで何度でも、自分で繰り返すことができるのが、この教材のいいところです。

チップ落とし Slotted Box with Chips

木製のチップの大きさは、直径3cm、厚さ2mm

箱にあけられたスリットは、3cm×7mmです。

貯金箱にコインを落とすように、スリットにディスクを落とします。

この活動は、細長い隙間に物を落とすのが大好きな時期にぴったりです。

道端の排水溝や、家具の隙間、カードの挿入口など、

日常の中で子どものそんな姿を見かけたら、ぜひ紹介してみましょう。

箱の開け方を異なるものにしてみたり、落とす物の形や大きさを変化させることで

バリエーションができます。

箱はメールボックスの活動のような構造だと、すでに経験しているので成功しやすいでしょう。

そこから、引き出し式やラッチで留めるもの、ひねって開ける筒状の容器など、

変化させることができます。

落とす物は幅を段階的に細くしていき、アイスの棒や竹串、ビーズ落としなどに

展開させていくことができます。

より分け Sorting

3つに分かれたトレーに、2種類3個ずつの貝殻が入っています。

貝殻以外に、ボタンなどでも活動することができます。

用意するものは、形や手触りがまったく異なるものを2種類です。

まず、初めての子どもには「これは貝殻」と名前を伝えます。

ひとつを手渡し、両手で触らせて感覚を体験したら、もとに戻します。

次に、別のものを手渡し、同様によく触って触覚で違いを確認させます。

今度は違うものをひとつずつ右手と左手に持ち、触覚が違うことを伝えます。

そして手を開いて、視覚でも違いを確認します。

その後、同じものをひとつずつ右手と左手に持ち、今度は同じであることを確認します。

ここまでが、探求の段階です。

同じであるということ、違うものであるということを、意識的に探究します。

子どもにとって初めての経験です。

後日、活動に誘い掛け、違う貝殻を片手ずつに持って違いを確認します。

その後、ひとつずつ貝殻を手に持ち、同じもの同士でより分けます。

パズル Puzzles

台をひっくり返さなくても取り出すことができるように、大きくてつかみやすい

つまみがついています。

3本の指でつまみ部分を持ち、出す、戻す、の動きを丁寧に見せます。

活動は、いちばん最初は角のない円、それから三角形、四角形の順に進めていきます。

それぞれができるようになったら、複数をいっしょに出しましょう。

図形の名称を伝え、言語を紹介することも、活動目的のひとつになります。

横に開ける木箱 Wooden Box with Sliding Lid

木の板状の蓋を、横にスライドさせて開閉する箱です。

左手で箱を押さえて、右手の人差し指で蓋の溝を押し、蓋を横にずらします。

右手で蓋をスライドさせて開けます。

スライドさせて開ける動きは、ものによって難易度が変わります。

発達の段階に応じて、いくつかあるとよいでしょう。

手前に倒す引き出しの箱 Box with Bins

長方形の木製の箱に、手前に倒して開ける3つの引き出しがあります。

引き出しはそれぞれ赤と黄色と青に塗られていて、つまみがついています。

3つの引き出しにはひとつずつ、中に異なるものを入れておきます。

3本指で親指を上、あとの2本を下に置いてつまみを握り、手前に倒して開けます。

子どもといっしょに、中に入っていたものの名称を確認します。

引き出しを閉じたら、子どもに別の引き出しを開けるよう誘い掛けます。

活動の動機付けになるよう、引き出しの中身は一週間に1回くらい変えましょう。

ラッチ Latches

たくさんの種類のラッチがあります。

教材として作られたものではなくても、日常的に使用しているものの中から探すことができます。

様々なところにラッチがついているものは集中できないので、ひとつずつ孤立したものが

よいでしょう。

ラッチを外して扉や蓋を開けると、中には知っている人の写真や、身近なものが入っています。

また、小さなビーズのひも通しや縫いさしなど、まだその発達段階にない子どもには

触れてほしくないものを、ラッチのついた容器に入れておくことができます。

そうすることで、触れることを禁止するのではなく、容器を開けられる子どもがそのお仕事を

できるのだと伝えることができます。

提供する時には、子どもの指の動きや強さをよく観察して、発達段階に見合ったものを選びます。

形状もそうですが、金具の強さによっても難易度が変わります。

あまりにも難しいと、子どもはまったく興味を示しません。